美しい歩き方

「立ち居」(静止姿勢)ができたなら、次は「振舞い」の基本である歩き。歩行は最も基本的な日常動作だからしっかりマスターしよう。二本足できちんと歩けるのは人類の証し。ところがこれが出来てないんだな。

歩行の際の前進運動には、次の2種類の動作が主要部分といえる。片脚を前に出して着地する動作と、足を爪先立ちにして後へ蹴り出す動作だ。この2つのうち、推進(前進)力をどちらの動作がより多く担当するかで歩行姿勢も2つに別れる。つまり、歩き方には2種類あるのだ。

1.和式歩行

前者の片脚を前方に出すだけで前進しようとする場合(日本人はこの動作が推進力だと思っている)、出した脚に力を入れて胴体を前方に引っ張ることになる。すなわちスリ足で、腕を振らず(振るとしても足と同じ側)、着地した脚の膝を曲げて、腰を落としやや前傾した姿勢で成り立っている。腕も含めた上体と腰を固定して、腰から下だけの運動で前進しようとするものだ。実はこの動作が日本の伝統的な作法とされている歩き方なのだ(練り、運び、歩みなど。右図)。だから玉砂利を踏む神官や街中での力士の歩行もスリ足。実際、小笠原流でもこの歩行法(5通りある)を教えている。和服・和室での歩きはこの方法をとること。この歩き方は田んぼのようなぬかるみの中を歩く場合や、室内で足音をたてないで歩く場合に適している。能や狂言で演じられる歩行動作も、昔の日本人ならごく日常の歩行法なのである。

2.洋式歩行

それに対して後方蹴り出しを推進力として使っているのは欧米人だ。彼らの歩行は、後の足の爪先で後方に蹴り出し、残った脚を真っすぐ前方に伸ばしてつっかえ棒にして着地する歩行なのだ。これは両脚の振り子運動であり、その振り子運動を増幅するために更に腕も逆位相で振るのだ。脚と腕が交互に振られる”ねじれ”で腰も旋回するので、全身運動になりうる(この腰の旋回を最大限にして進むのが”競歩”のちょっとへんな動作)。こちらは平坦な大地を長距離歩くのに適している。洋服で外を歩くときはこの歩き方をすること(下図)。

 

3.現代日本人の歩行

さて、あなたは、この2種類の歩き方を使い分けているだろうか。いないよね。では無自覚の普段の歩き方はどちらの歩き方に近いか知ってる?
おもしろいことに、今でも日本人の歩き方は膝を伸ばさず腕を振らない伝統的なスリ足歩行から抜けきっていない。ミニスカートでハイヒールのきれいなお姉さんたちもちゃんと膝を曲げて歩いている。ひと目で日本人とわかるね。もちろん外国の女性は(男性も)膝を伸ばして、長い脚をさらに長く使っている。かっこいい。日本の伝統を否定するわけではないが、現代の日本人は洋装であるため、欧米流の歩き方をした方が見た目からいっても、脚をめいっぱい長く使っていて美しくみえるはず。

4.美しい歩行法

ではその歩き方のポイントをお話しよう。まず、立位の姿勢がきちんとできていること。更につけ加えるポイントを以下に示す。

・踵からの着地を意識すれば、自然に膝がまっすぐ伸びる。
・後方に蹴り出す際、足首を内や外にひねらない。
・足先はやや外向き(決して内またにならない)。
・腕の振り幅が胴体の前後で等しい:後方に振らない人が多い(スポーツジムでよく見かける)
・体の横揺れをしないために、ほぼ直線上に足を置く

 以上の点に注意して歩いてみよう。ちなみに歩行練習にはスニーカー(運動靴)を使うこと(ヒールやつま先の細いパンプスは向かない)。コツとしては、着地点をいつもより5cm先に置くことを心がける。ただし大股になるのではなく、踵で着地する際、膝をきちんと伸ばし、更に腰の旋回を使って、着地する脚の側の腰を前に押し出すことで歩幅をかせぐのだ。
腰の入りが肝要だ。腰さえ入れば、腕の振りも右図のように自然に内側に回る(腕を外側にブンブン振って歩くオバサンは、腰を使ってないのだ。腰を入れて歩いていたら、もう少しウエストも…)
それに自然な着地姿勢のままで直線上に歩ける(腰を入れずに直線上に着地しようとすると、千鳥足・おいらん歩きになる)。脚の本当の始まりである股関節は、股よりも上の腰にあるのだ。だから腰から歩くのだよ!

ちなみにハイヒールでは踵着地ができないので、つま先着地(つま先とヒールの同時着地)を意識すること。つま先までピンと伸びた脚を見せる(上の踵着地よりもさらに脚が長く見える)ことがハイヒールの美点なのだから。
つまり女性は、スニーカー、ハイヒール、草履・足袋に応じた3種類の歩き方を使い分けること。

 歩行においても左右のバランスは大切だ。建物の中を歩く時は、自分の足音を聴いて左右の足音の高さが違いすぎないか確認しよう。横揺れは左右の脚の動きがアンバランスなためだ。ただし、足首の動きや横揺れなどは歩行中では確認できないので、できれば自分の歩く姿(背後からと、側面から)を一度ビデオに撮って観察してみることをお勧めする。本来、正しい姿勢も美しい歩き方も学校の体育できちんと教えるべきだと思う。
 幸いなことに私たちは毎日歩く(練習する)機会があるので、歩行姿勢は1ヶ月も注意して歩けばかなり改善される。  
頑張ろう!

 

戻る