チンパンジーの肉食文化 (4/4)
4.狩猟・肉食行動の進化
- 左の写真は、マハレのブッシュバックです。前述したようにマハレやゴンベのチンパンジーはこのブッシュバックを食べます。彼らはこどもや赤ん坊を食べることが多いのです。
- さて、ここまで述べてきたように、狩猟採集民とチンパンジーに見られる、狩猟・肉食行動上の大きな違いは、その頻度と対象の選択の幅にあります。狩猟採集民の狩猟頻度はチンパンジーと比べてはるかに高く、また選択の幅も広いのです。こうした違いは、それぞれが歩んできた進化の道筋の違いに対応していると考えられます。
- 人間、チンパンジー、ビーリャに狩猟・肉食行動が見られ、オランウータン、ゴリラに見られないことから、この行動は、人間・チンパンジー・ビーリャの系統とゴリラの系統が分岐したのち、そして、人間とチンパンジー・ビーリャの系統が分岐する以前に獲得されたものと推定できます。多分森林の中に住んでいた人間・チンパンジー・ビーリャの共通祖先は、現在のビーリャに見られるような、小型の哺乳類をつかみ取るという方法で肉を手に入れていたのでしょう。その後、人類とチンパンジー・ビーリャの系統が分岐しましたた。そして、それぞれが違った環境に適応していく過程で、独自の狩猟・肉食行動を発展させていったのでしょう。
- 人類の系統は、直立二足歩行の獲得によって、地上での活動を余儀なくされました。その結果、狩猟対象は、地上を移動する有蹄類が中心となっていったのでしょう。一方、樹上での活動を盛んに行うチンパンジーは、樹上を生活空間としている霊長類を狩猟対象として選択しました。そして、チンパンジーよりもより乾燥した環境に進出した(進出せざるを得なかった)われわれの祖先は、肉への依存を強めていったと考えられます。ただし、高度な道具を持たず、また犬歯も小さくなった彼らは、狩猟よりもスカベンジング(屍肉あさり)によって肉を手に入れていた可能性が高いと思われます。その過程で、「肉であれば何でも食べる」という性質を獲得し、選択の幅を広げたのでしょう。
- 一方、肉への依存度がさほど高くないチンパンジーは、狩猟対象の選択の幅が人間よりも狭い段階に留まったと考えられます。さらに、人類の系統は、ホモ属の登場以降、道具使用や社会組織の発達によって、狩猟によって効率よく肉を手に入れられるようになり、肉への依存度をさらに高めたのでしょう。
- こうした説明は、現在のところ一つの仮説に過ぎません。しかし、今後チンパンジーをはじめとする野生霊長類の狩猟・肉食行動の研究が進めば、より正確な道筋を描くことが可能になるでしょう。
チンパンジーの肉食文化 終わり
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