コロブスを襲うチンパンジー (1/5)
- ここでは、モンキー No.296に掲載された「コロブスを襲うチンパンジー:ウガンダ共和国カリンズ森林での観察から」という報告をもとに、カリンズ森林林ではじめて観察されたチンパンジーの狩猟の試みについて紹介します
- 「コロブスを襲うチンパンジー」は、このページを含め全部で5ページです
1.サルを食べるチンパンジー
- 1963年にジェーン・グドールさんが、タンザニアのゴンベ国立公園での観察に基づいて、野生チンパンジーの狩猟・肉食行動を初めて報告したとき、人々はたいへん驚きました。当時の常識では、人間だけが他の哺乳類を殺して食べる「サル」だと考えられていたからです。しかし、その後野生チンパンジーの研究が各地で進むようになると、チンパンジーの狩猟・肉食行動は、彼らにふつうに見られる行動であることが明らかになりました。
- 一方研究の進展につれて、同じ狩猟・肉食行動であっても、人間とチンパンジーの間には違いがあることもわかってきました。もっとも大きな違いは、この行動の「頻度」です。タンザニアのマハレ山塊国立公園やコートジボアールのタイ国立公園のチンパンジーのように、頻繁に狩猟・肉食を行う場合でも、その頻度は平均すると数日に1回程度です。一方、野生の動植物に依存した生活をおくっている狩猟採集民の人たちは、毎日のように狩猟を行っています。また一人(1頭)当たりの肉の消費量も、狩猟採集民の人たちの方が10倍近く多いのです。
- もう一つの大きな違いは、狩猟対象となる哺乳類です。私たち日本人も「肉」というとまず思い浮かべるのが、ウシやブタなどの蹄を持ち地上を動き回る動物、すなわち有蹄類でしょう。狩猟採集民の人たちの多くも、日常的に食べているのはこうした有蹄類の肉です。ところがチンパンジーは、有蹄類を食べることもありますが、むしろサルの仲間を食べることの方が多いのです。タイのチンパンジーなどは、ダイカーと呼ばれる有蹄類がすぐ側を通っても、完全に無視してしまいます。彼らが狙うのは、アカコロブスやダイアナモンキーと呼ばれるサルの仲間だけです。こうした傾向は、タイに限らずチンパンジー全体に共通したものと言えます。
- 上の図は、これまでに肉食の証拠が得られているチンパンジーの調査地を、植生とともに示した図です。中長期の調査が行われ、狩猟・肉食の証拠が得られたチンパンジーの15の調査地のうち、狩猟対象がわかっているのが13ヶ所。そのうちサルが狩猟対象に含まれていないのは、チンパンジー以外のサルが生息していないギニアのボッソウただ1ヶ所だけです。また狩猟・肉食の証拠が比較的多く得られているマハレ、ゴンベ、タイでは、チンパンジーが捕まえた哺乳類に占めるサルの割合は、いずれも80パーセントを越えています。このようにチンパンジーのおもな狩猟対象はサルなのです。
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