コロブスを襲うチンパンジー (2/5)
2.チンパンジーに食べられるサル
- ではチンパンジーに食べられているサルは、何の抵抗もせずにチンパンジーに捕まえられているのでしょうか? 彼らはチンパンジーが近づいてくるとどのような行動を取るのでしょうか? 実はこの点に関しては不明なことが多いのです。これまでのチンパンジーの狩猟・肉食行動の研究は、当たり前といえば当たり前のことですが、チンパンジーを観察対象として行われてきました。そこで狩猟対象であるサルが、チンパンジー狩猟に対してどのように振舞うかはわからないことが多かったのです。しかしチンパンジーの狩猟・肉食行動をよりよく理解しようとすれば、狩猟対象であるサルの研究も欠かせません。こうした観点から、私は1995年以来マハレで、チンパンジーの狩猟対象の一つであるアカコロブスの研究を行ってきました。
- アカコロブスはアフリカに広く分布するサルで、チンパンジーと同じ場所に住んでいることが多いのです。左の写真は、樹上で休息するマハレのアカコロブスの親子です。彼らは、40〜80頭程度の、複数のおとな雄とおとな雌がいる群れで生活しています。そしてこのサルは、マハレ、ゴンベ、タイのいずれにおいても、チンパンジーによってもっとも頻繁に狩猟されているのです。
- ではアカコロブスは、チンパンジーにむざむざ食べられているだけなのでしょうか? 実は彼らは、チンパンジー狩猟に対してさまざまな対抗手段を取っています。例えばマハレのアカコロブスは、チンパンジー狩猟に対して「警戒・防衛戦略」という方法で対抗しています。チンパンジーが近づいてくると、まずおとな雄が警戒音を鳴きます。それでもなおチンパンジーが近づいてくると、今度は群れのメンバーすべてが、蔓の生い茂った場所などに身を隠します。そして狩猟が始まると、おとな雄が中心となってチンパンジーに対して反撃に出ます。こうした行動は、ゴンベのアカコロブスでも観察されています。
- 一方チンパンジーの調査地の中には、アカコロブスがいない場所もあります。こうした場所では、チンパンジーはどんなサルを狩猟しているのでしょうか? 食べられる側のサルは、アカコロブスと同じような反応を示すのでしょうか? このような興味から、私は1999年度にウガンダのカリンズ森林で調査を行いました。この調査の過程で、チンパンジーがアビシニアコロブスと呼ばれるサルを襲う場面を観察しました。ここではその過程のあらましを報告し、カリンズにおけるチンパンジー狩猟の特徴や狩猟に対するサルの反応を他の地域と比較してみたいと思います。
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