コロブスを襲うチンパンジー (5/5)
5.コロブス狩猟の特徴
- 左の写真は、カリンズのブルーモンキーです。このサルは、橋本さんらによってチンパンジーに食べられるところが観察されています。
- これまでのマハレやゴンベ、タイでの研究から、チンパンジーがアカコロブスを狩猟する際の特徴として以下のような点が指摘されています。まず各調査地に共通する点として、チンパンジーは複数個体で狩猟し、とくにおとな雄が狩猟することが多いといった点が挙げられます。一方、アカコロブスへの接近の仕方には地域差が見られ、マハレやゴンベでは、チンパンジーは声を上げながらアカコロブスに近づくことが多いが、タイではチンパンジーは黙って忍び寄ることがほとんどであるとされています。また狩猟対象の年齢にも地域差が見られ、マハレとゴンベでは、チンパンジーはアカコロブスの子どもや赤ん坊を好んで狩猟するのに対し、タイではこうした選好性はほとんど見られません。
- 一方、アカコロブスの反応にも、チンパンジーの狩猟方法の違いに対応した地域差が見られます。マハレやゴンベでは、アカコロブスがチンパンジーの攻撃に対して反撃することが多いのに対し、タイではアカコロブスの反撃は少ないとされています。
- こうしてみてくると、今回観察された事例はこれまで明らかになってきたチンパンジー狩猟の特徴と共通する点が多いことがわかります。まずチンパンジーの複数個体が狩猟を試みたことです。そしておもにおとな雄がコロブスを追った点です。地域差が見られる特徴では、マハレやゴンベと共通する点が多いと言えます。まずカリンズのチンパンジーは、声を上げながらコロブスに近づいてきたことです。またコロブスが反撃に出て、チンパンジーを追った点もマハレやゴンベのアカコロブスと同じ行動でした。
- 一方今回の事例では、アカコロブスには見られない行動も観察されました。その一つは、コロブスのおとな雌がチンパンジーを追った点です。またチンパンジーの接近に対して、コロブスのおとな雄が警戒音を鳴かなかった点も、マハレやゴンベのアカコロブスとは違った反応でした。さらに、コロブスが木を降りて地上を逃げた点も、マハレやゴンベのアカコロブスとは異なった反応です。マハレやゴンベでは、チンパンジーに襲われたアカコロブスは、地上に降りずに樹上を逃げようとします。そのため、樹冠が不連続な場所では、樹高の高い木に取り残されてしまった個体が、周りをチンパンジーに囲まれ、みすみすチンパンジーに捕まえられてしまうこともあります。一方今回の観察では、樹冠が連続した場所であったにも関わらず、コロブスは地上に降りて逃げました。
- そもそもアビシニアコロブスは、10頭程度の小さな群れで生活しています。またふつうは群れの中に1頭のおとな雄しかいません。こうした特徴の違いが、アカコロブスとは違った反応を生み出している可能性は高いと考えられます。アビシニアコロブスは小さな群れで生活しているため、チンパンジー狩猟に対して「見つからない」という戦略を取っているのではないでしょうか。そのため、声を上げて近づいてくるチンパンジーに対しておとな雄は警戒音を鳴かないのだろうと考えられます。
- いずれにせよ、この1例だけの観察では、残念ながら限られたことしか言えません。カリンズのチンパンジーの狩猟・肉食行動の特徴と狩猟対象の反応を詳しく見ていくためには、アビシニアコロブスをはじめとしたサルの調査を継続し、こうした観察事例を積み上げていくことが必要でしょう。
コロブスを襲うチンパンジー 終わり
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