霊長類に見られる被食−捕食関係 (1/6)
- ここでは、学術月報53巻10号(2000年10月号)に掲載された「霊長類に見られる被食−捕食関係」という報告をもとに、アカコロブスとチンパンジーの関係について紹介します
- 「霊長類に見られる被食−捕食関係」は、このページを含め全部で6ページです
- なお文中で上付きで示されている番号は、引用文献です。最後のページにそのリストが載っています
1.はじめに
- 生態学においては、生物界に見られる被食−捕食関係(食われる−食うの関係)が、捕食者と被食者双方の個体群動態や集団形成、あるいは集団の大きさや構成などに大きな影響を与えることが古くから指摘されてきました。霊長類研究においても、この関係は研究の初期から注目されてきています。しかし、野生下で被食−捕食関係を詳細に研究することは難しいのです。それは、捕食者と被食者双方の行動を観察するのが難しいためです。
- 野生霊長類の分布の中心であるアフリカや東南アジア、中南米の熱帯林には、彼らを被食者とする大型の肉食獣や猛禽類が生息しています。こうした場所からは調査対象の霊長類が猛禽類やライオンなどに襲われた事例がいくつか報告されています。しかしこれらの多くは逸話的な報告に留まっており、捕食者と被食者双方の詳細な観察に基づいた研究は少ないのです。
- 一方30年以上にも及ぶ野生チンパンジーの研究から、彼らはその生息環境に関わらず哺乳類を狩猟・肉食していることが明らかになっています1)。私たちは狩猟というとつい有蹄類を対象として思い浮かべてしまいます。しかしチンパンジーの主要な狩猟対象は、彼らと同じ霊長類なのです1、2)。すなわち霊長類同士が被食−捕食関係でつながっているのです。
- 捕食者であるチンパンジーは長期の継続調査によって観察者に慣れています。そこで、被食者である霊長類を観察者に慣らせば、被食−捕食関係という生態学にとって重要な関係を、捕食者と被食者双方の資料を用いて詳細に研究できるに違いありません。
- こうした観点から、私はここ数年タンザニアのマハレ山塊国立公園で、被食者である霊長類の研究を行ってきました3)。ここではこの研究によって得られた成果を中心に、霊長類の中に見られる捕食者(チンパンジー)と被食者の関係について述べたいと思います。
- この写真はチンパンジーに頻繁に食べられるアカコロブスというサルです。
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