1.宮崎県幸島における研究
修士課程では、宮崎県幸島の群れを対象として、個体の採食場所の選択に対する社会関係の影響について調査した。その結果、食物が豊富な季節には、優劣関係や血縁関係といった社会関係よりも、食物の分布パターンや採食樹の大きさといった生態的な要因がサルの採食場所の選択に重要であることが明らかになった。この成果を「Primates」に発表した。
2.近畿地方の猿害に関する研究
1993年度より、和歌山県、奈良県を中心とした近畿地方における猿害の調査を行っている。1993・1994年度に実施したアンケート調査と現地調査の結果を踏まえ、これらの地域における猿害の実態と野生ニホンザルの生息状況について「霊長類研究」に発表した。
1.オス間関係の研究
現地調査で得られたオス間の社会交渉の資料を分析し、これまで不明な点が多かったビーリャのオス間関係について検討した。その結果、オス間関係には集団内の母親の存在が影響している一方、この影響が現れる程度には単位集団のオスの年齢・構成が大きく影響し、オス間関係に集団間の変異が認められることが明らかとなった。この成果を「Primates」等に発表した。
2.ビーリャと樹上性霊長類の種間関係に関する研究
ビーリャと樹上性霊長類との関係について、ビーリャの狩猟・肉食行動という観点から調査を行った。チンパンジーでは最も頻繁に狩猟されることが知られているアカコロブスとビーリャの間でグルーミングが観察されたこと、及びワンバにおける初めてのビーリャによる肉食の直接観察例をPrimates誌において報告した。また、ビーリャとオナガザル2種(ウォルフモンキーとアカオザル)との関係は、非敵対的で、ビーリャがこれらのサルを狩猟する可能性がほとんどないことを「Primates」に発表した。これらの結果を踏まえ、チンパンジーとビーリャ、さらに狩猟採集民の狩猟頻度や狩猟対象の選択性を比較し、ヒト上科における狩猟・肉食行動の進化について考察し、「アフリカ研究」、「霊長類研究」において発表した。
1.タンザニア共和国マハレ山塊国立公園における研究
1995年度より、タンザニア、マハレ山塊国立公園において、チンパンジーの狩猟に関する研究を行っている。チンパンジーが最も頻繁に狩猟するアカコロブスを対象として、彼らの対捕食者(チンパンジー)戦略を明らかにするとともに、これまでの報告によってチンパンジーが狩猟することが明らかになっている昼行性霊長類5種(アカコロブス、キイロヒヒ、アカオザル、ブルーモンキー、サバンナモンキー)の個体密度を推定することを目的として調査を行った。また、ベッド・センサスに基づくチンパンジーの密度推定法の検討も行った。これらの研究の予備的な成果をいつくかの学会で発表した。現在専門誌に投稿すべく、分析を継続している。
2.ウガンダ共和国カリンズ森林における研究
1999年度にはウガンダ共和国カリンズ森林において、チンパンジーの狩猟・肉食行動に関する現地調査を行った。カリンズにはチンパンジー以外にアヌビスヒヒ、アカオザル、ブルーモンキー、ロエストモンキー、アビシニアコロブスの5種の昼行性霊長類の生息が知られている。これまでの研究からチンパンジーは、アカオザルとブルーモンキーを食べたことが明らかになっている。1999年度の調査では、チンパンジーがアビシニアコロブスを襲うことが観察された。