チンパンジーの肉食文化 (2/4)
2.チンパンジーの肉食頻度
- チンパンジーの長期調査が行われてきたタンザニアのマハレとゴンベ、それにコートジボアールのタイからの報告によると、それぞれの調査地のチンパンジーの肉食頻度は下の表1のように推定されています。雌に比べよく肉食をする雄では、平均して1年に10数頭の獲物を手に入れていることになります。人間以外の霊長類で、これほど頻繁に肉を食べているものはいません。
- 左の写真は、マハレで撮影された肉食するチンパンジーのおとな雄です(左側の個体)。写真が悪くて見えにくいと思いますが、矢印の先にアカコロブスというサルの死体があります。右の個体はおとな雌です。彼女は野生のレモンを食べています。チンパンジーが肉食をするときには、このようにレモンや葉を一緒に食べることが知られています。
1):アカコロブスのみを対象とした推定値、2):二つの集団の合計
表1.マハレ、ゴンベ、タイのチンパンジーの1年間あたりの獲物の数の推定値 |
調査地 | チンパンジー集団による獲物の数 | 1頭のおとな雄チンパンジーによる獲物の数 |
マハレ | 61頭 (個体/年) | − |
| 701) | − |
ゴンベ | 2042) | 13.6(個体/年) |
| − | 18.51) |
タイ | 73.2 | 6.6 |
- しかし、下の表2に示されているように、野生の動植物に大きく依存している狩猟採集民と比較すると、チンパンジーの肉の消費量は人間よりはるかに少ないと言えます。
表2.チンパンジーと狩猟採集民の肉の消費量の比較 |
| | 消費量 |
チンパンジー | マハレ | 3 kg/頭/年 |
| ゴンベ | 11 |
| タイ | 6 |
狩猟採集民 | クン・サン | 124 kg/人/年 |
| セントラル・サン | 80 |
| ムブティ | 285 |
- 人類に見られる肉食頻度の増加は、一般的には乾燥地への適応と考えられています。湿潤な熱帯林では、果実が一年中豊富に存在するのに対して、乾燥したサバンナなどでは、果実の生産量が少なく、季節によって変動するからです。そこで、乾燥地へ進出した(進出せざるを得なかった)われわれの祖先は、新たな食物資源を探す必要に迫られたと考えられます。そして目をつけたのが、こうした環境に豊富に存在する哺乳類だったというわけです。しかし、下の表3に示されているように、チンパンジーの糞の内容物を調べてみると、例えば、乾燥地の方が彼らの肉食頻度が高いといった、植生による変化は認められません。
表3.糞分析による野生チンパンジーの肉食の頻度 |
調査地 | 植生 | 調査した糞の数 | 哺乳類の残骸を含んだ糞の数 | 割合 |
アシリク山 | サバンナ | 783 | 14 | 1.8 % |
ウタンバ・キリミ | 乾燥ウッドランド | 58 | 6 | 10.3 |
ボッソウ | 湿潤ウッドランド | 300+ | 0 | 0 |
ロペ | 熱帯低地林 | 1854 | 32 | 1.7 |
ンドキ | 熱帯低地林 | 214 | 8* | 3.7 |
キバレ森林(カニャワラ地区) | 混合林 | 839 | 24 | 2.9 |
キバレ森林(ンゴゴ地区) | 混合林 | 416 | 12 | 2.9 |
カサカティ | サバンナ | 174 | 1 | 0.6 |
ゴンベ | 湿潤ウッドランド | 1963 | 114 | 5.8 |
マハレ(K&M集団,1975-1976年) | 湿潤ウッドランド | 989 | 1 | 0.1 |
マハレ(K集団,1975-1979年) | 湿潤ウッドランド | 507 | 1 | 0.2 |
マハレ(M集団,1975-1982年) | 湿潤ウッドランド | 4217 | 48* | 1.1 |
マハレ(M集団,1983-1984年) | 湿潤ウッドランド | 1053 | 62 | 5.9 |
*:鳥の残骸も含む
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