霊長類に見られる被食−捕食関係 (3/6)
3.チンパンジー狩猟の影響
- マハレでは、30年以上に及ぶ研究から少なくとも17種の哺乳類がチンパンジーによって食べられたことが明らかになっています1)。しかし、狩猟対象となりうる哺乳類の生息密度が明らかになったのは最近のことです7)。この資料を、長年にわたり蓄積されてきたチンパンジーの狩猟・肉食行動の資料とつきあわせることで、マハレのチンパンジー狩猟が哺乳類個体群に与える影響が明らかになりつつあります8)。
- 上の図は、マハレ、ゴンベ、タイの三つの調査地で、それぞれチンパンジーの遊動域内に生息するアカコロブスの推定数と1年間に殺されているアカコロブスの割合を示したものです。
- それによるとチンパンジー狩猟がアカコロブス個体群に与える影響はさほど大きくないと考えられます。最新の資料では、マハレのチンパンジーが1年間に殺すアカコロブスの数は100頭前後と推定されています4)。一方調査対象であるチンパンジーM集団の遊動域(約30km2)の中には、約3000頭のアカコロブスが生息していると推定されます。そこで、1年間に殺されるアカコロブスの数はアカコロブス個体群の約3%と考えられます。
- 残念ながらマハレのアカコロブスの人口増加率は今のところ不明ですが、他の調査地の値とほぼ同じと考えれば、その値は3-5%程度となります。チンパンジーによる捕食率と人口増加率がほぼ等しいことから、マハレのアカコロブスはチンパンジー狩猟によって個体数を減らしているとは考えにくのです。過去の正確なアカコロブスの数は不明ですが、長年マハレで研究してきた人は、アカコロブスの数は徐々に増えているという印象を持っています7)。
- ゴンベでは、多い年には1年間に100頭を越えるアカコロブスがチンパンジーによって殺されていると推定されています。この数はアカコロブスの推定個体数の40%を超えています9)。この数字が本当なら、ゴンベのアカコロブスはチンパンジー狩猟によって年々数を減らしていることになります。しかし30年を越える調査の過程でアカコロブスの数が減っているという証拠は得られておらず、アカコロブスの個体数かチンパンジーによる捕殺数のいずれかの推定値に誤りがあると考えざるを得ません。
- またタイでは、1年に50頭程度のアカコロブスがチンパンジーに殺されていると推定されており、この数はアカコロブスの推定個体数の1-4%程度に当たります8)。そこでタイではマハレ同様、チンパンジー狩猟によってアカコロブスの数が減っているとは考えにくいのです。
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