霊長類に見られる被食−捕食関係 (4/6)
4.警戒・防衛戦略
- チンパンジー狩猟に対抗するため、アカコロブスは他の被食者同様、様々な対捕食者(チンパンジー)戦略を進化させてきたと考えられています。ただここで注意を要するのは、チンパンジーは捕食者としては少し変わった性質を持っているということです。それは捕食者にしては「うるさい」ということです。多くの肉食獣や猛禽類は静かに獲物に忍び寄ります。ところがチンパンジーは大きな声を上げながら獲物に近づいていきます。アカコロブスの対捕食者戦略を考えていく上で、この点は重要です。
- マハレのチンパンジーが接近してきたとき、アカコロブスはどのように反応するのでしょうか? アカコロブスの群れを追跡し、チンパンジーの接近に対する反応を記録したところ、以下のようなことが明らかになりました3)。
- 上の図は、チンパンジーの接近に対してアカコロブスが利用する高さを変える様子を示したものです。
- アカコロブスはチンパンジーの声が遠くに聞こえただけでは、行動や利用する高さを変えることはありません。アカコロブスの調査対象群は、チンパンジーM集団の遊動域の中央部に分布しており、チンパンジーの声を聞く機会も多いのです。そのため遠くに声がしただけでは、特別警戒することがないのでしょう。
- さてチンパンジーがさらに近づき、アカコロブスから200m以内に来ると、おとな雄が木の高いところに登り、警戒音を鳴きます。しかしこの時点ではおとな雌や子どもはまだ行動や利用する高さを変えることはありません。
- さらにチンパンジーが近づき、アカコロブスから100m以内に来ると、おとなも子どもも蔓が生い茂った10m程度の高さに移動し蔓の中に隠れます。
- そして不幸にもチンパンジーに発見され狩猟が始まると、体格の一回り大きいおとな雄が反撃に出ます。その間に雌や子どもは木から木へ飛び移りながら逃げようとします。実際アカコロブスのおとな雄による反撃で、怪我を負ったチンパンジーも観察されています。
- このような一連のアカコロブスの反応は、警戒・防衛戦略(Stand and defense strategy)と呼ばれています。同じ反応は、マハレだけでなくゴンベでも観察されています10)。
- 一方タイではアカコロブスの反応は違っています。ここではチンパンジーが声を上げずに接近することが多く、またタンザニアと比べてチンパンジーとアカコロブスの体格差も大きいのです。そのためかタイのアカコロブスはチンパンジーの声が聞こえるとすぐに声と反対方向へ逃げようとします。そして狩猟が始まってもおとな雄が反撃に出ることは稀です11)。
戻る
次へ