トカラの森のウシたち
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野生化ウシ 1
1.形態的・遺伝的特徴
- 野生化ウシは、現在日本で飼われている和牛同様、黒や茶といった毛色をもっています。
- 品種改良の結果、家畜のウシには腹などに白斑が現れることはほとんどありませんが、野生化ウシにはこの写真にあるように、腹などに白斑のあるものがいます。
- 家畜系統史の研究者によると、口之島の野生化ウシは原牛型ヨーロッパ系ウシと遺伝的差異のあまりないウシであり、明治以来日本の各地で進められてきた改良されたヨーロッパウシとの交雑をされていない、日本在来ウシの形質を多分に残した個体群であることが明らかになっています。
2.野生化ウシの歴史
- 享保12年(1727年)に書かれた島の財産目録『立証名寄帳写』には、庭の木一本にまで課税されていたこの当時、課税対象にならない「牛一疋」がいたという記述があり、このウシは野生化ウシであるがゆえに課税の対象とされなかった可能性が考えられます。
- より正確な記録としては、笹森儀助の『拾島状況録』(1895年)の口之島の項につぎの記述があります。「本島、牛7頭ヲ有シタルモ制禦スルノ方法ヲ知ラス、故ニ之ヲ農業ニ使用セス。亦肥料ヲ収メス。従ラニ野ニ放飼ス。」
- 島の古老からは、今世紀の初頭に3頭の畜牛を山に放したのが最初であるという聞き込みを得ており、以上のことを考え合わせると、畜牛をうまく管理することができなかった島民が、畜牛を野に放し、次第にその数が増えて現在の野中化ウシになったものと考えられます。すなわち、口之島の野性化牛は、少なくとも80年以上の歴史をもつものと思われます。
3.個体数
- 野性化ウシの個体数は、1983年の12月の時点で約75頭と推定されています。ただし、数年に1回、島民がおとなの雄だけを捕獲しているため、おとな雄の数は少なく、性構成の不均衡が認められます。
- ウシの個体数推定にあたっては、ウシの個体識別を行いました。白斑のあるウシは、その形状や位置によって識別しましたが、白斑の無いウシは、この写真のような角の形状や顔の中心にある毛の渦巻き状になった部分などに基づいて識別しました。
4.食性
- 直接観察や食痕、聞き込みなどから、32科51属54種(直接観察によるものは34種)の植物を、野生化ウシは食物として利用していることが明らかになっています。この中には、畜牛の食草として利用されるイネ科やカヤツリグサ科などの草本のほかに、リュウキュウチクの葉や、ハドノキ、ヤツデ、トカラアジサイなど木本の葉、タマシダなどのシダ類も含まれていることは注目に値します。
- この写真は、杉の植林地で採食しているウシです。ウシは平坦な場所を好むのか、彼らの生息域の中の植林地や窪地といった平坦な場所では、こうした光景をよく見ることができます。
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